株式会社日立製作所、SBテクノロジー株式会社、国立大学法人東京大学、日本電気株式会社、富士通株式会社、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(以下、NII)、株式会社NTTデータ、JIPテクノサイエンス株式会社の8団体は、2018年より国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(理事長:石塚 博昭/以下、NEDO)が管理法人として運営を支援する内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期」で採択された「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」の研究開発を推進してきました。
このたび、データ利用者・提供者によるデータ利活用に向けたサービス開発効率や相互運用性を高めるため、産官学のさまざまな分野にまたがるデータを接続する分散型の「分野間データ連携基盤技術」と、その中核機能のソフトウェアツールとなる「コネクタ(注1)」や、データの取得方法やデータの内容を管理するデータカタログ(注2)の横断的検索機能を開発しました。また、開発した分野間データ連携基盤技術の有効性を検証するため、交通分野や観光・旅行分野などの複数分野において、データ利活用の実証を開始します。これらの実証においては、複数の分野にまたがるデータの取得を始め、データカタログの作成、データ交換、データ来歴管理などの検証結果を知見として蓄積し、分野間データ連携基盤技術の社会実装を実現していきます。
背景
近年、政府が主導するSociety5.0によるデータ利活用の提唱により、国、地方公共団体、民間企業などで分散して保有するデータを連携して、施策立案や新たなサービス、ビジネスの創出などを通じた民間企業の競争力強化や行政サービスの高度化が求められています。しかしながら、産官学のさまざまな分野のデータ連携において、データカタログに記載される情報の表記が統一されていないなど、相互運用の観点で課題がありました。
そこで今回、さまざまな分野のデータ連携を実現する技術を開発し、また、技術の有効性を検証するため、複数分野におけるデータ利活用に関する実証を開始します。
取り組み内容
(1) 効率的なデータ利活用を実現するコネクタの開発
8団体は、分野間データ連携基盤技術において、産官学で形式が異なるデータカタログを共通化させ、データを見つけて取得し、利用して管理するといったさまざまな分野のデータ利用者と提供者をつなぐインタフェース機能であるコネクタを開発しました。これにより、従来課題であったデータの取得方法やデータカタログに記載される情報の表記が統一され、データ利用者はデータ提供者と個別に調整をする必要がなくなり、効率的なデータ利活用が可能となります。また、データの各分野にまたがる横断的検索などの独立した中央集中型サービス(注3)とコネクタを連携させることができます。
データカタログの横断的検索機能については、NIIにて、インターネット上で試行公開(注4)しています。
また、これら分野間データ連携基盤の社会普及をめざして、関連する情報をNIIが開設するWebサイト(注5)を通じて積極的に公開していきます。
(2) 各分野でのデータ利活用に向けた実証を開始
今回開発した分野間データ連携基盤技術の社会実装に向け、交通、観光・旅行など複数分野でのデータ利活用に向けた実証を開始します。
交通分野の実証では、地方公共団体が保有するEV公用車の諸データを取得・活用するためのコネクタ機能の有効性の検証および地方公共団体の環境・交通施策におけるデータ活用の実効性確認を行います。
観光・旅行分野の実証では、地理空間情報の活用を中心に、航空情報や気象情報、周辺の交通情報を組み合わせて空港内の人流情報を可視化・分析し、旅客などに対し、商業施設への効果的な誘導を行います。
これらの実証を通じて、データカタログ作成やデータ交換、データ来歴管理などの検証結果や、分野間データを利活用したサービスとしての課題を把握していきます。
今後について
今後、8団体は、分野間データ連携基盤技術の社会実装に向け、交通、観光・旅行など各分野での利活用に向けた実証により有効性を確認するとともに、利用者を限定せずに段階的にコネクタをOSS(注6)公開するなど、産官学のデータ連携の普及促進を図っていきます。
また、産官学の連携により分野を越えた公正、自由なデータ流通と利活用による豊かな社会の実現を目的とする一般社団法人データ社会推進協議会(DSA:Data Society Alliance)と連携し、DSAが推進するデータ社会を実現する連携サービス(DATA-EX)における本格的な運用をすることをめざしていきます。
各団体の役割
- 株式会社日立製作所(執行役社長兼COO:小島 啓二)
分野間データ連携基盤技術の機能開発におけるコアコンポーネントの開発、および産官学一体のデータ流通・利活用をめざす推進団体の設立準備や普及拡大活動を実施。 - SBテクノロジー株式会社(代表取締役社長 CEO:阿多 親市)
行政・交通分野のデータ連携実証を担当。分野間データ連携基盤技術を利用したデータ連携・可視化に関する有効性の検証および有識者、利用者との検討会開催による評価を実施。 - 国立大学法人東京大学(総長:藤井 輝夫)
分野間データ連携基盤技術の試験用環境としての活用を想定している学術ネットワークとの連携機能開発を実施。 - 日本電気株式会社(代表取締役 執行役員社長 兼 CEO:森田 隆之)
分野間データ連携基盤技術の機能開発におけるデータ交換機能のうち、コンテキスト情報型のデータセットの取得機能開発を実施。 - 富士通株式会社(代表取締役社長:時田 隆仁)
分野間データ連携基盤技術におけるデータの来歴(原本・交換履歴)を記録・取得する機能開発および語彙統一作業を支援する統制語彙作成支援ツールの研究開発を実施。 - 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(所長:喜連川 優)
分野間データ連携基盤技術の機能開発における情報検索などの基盤技術開発とデータセット横断検索などのサービス開発、および産官学一体のデータ流通・利活用をめざす推進団体の設立に向けた活動や地方公共団体での流通・観光分野での実証を担当。 - 図1 分散型の「分野間データ連携基盤技術」
分野間データ連携による新規ビジネス創出に向け、空港内の人流情報に気象情報・公共交通情報・運航遅延情報などを掛け合わせることで、空港利用者の行動変容の原因を予測できる仕組みを提供。この仕組みを他の空港やターミナル駅などへ展開することを目的とした広域での利用者の最適誘導支援に関する実証を担当。 - JIPテクノサイエンス株式会社(代表取締役社長:家入 正隆)
インフラ分野の道路セクションにおけるデータ連携基盤技術の有効性検証のため、路線網(舗装)情報に道路の周辺空間情報(標識、植栽など)を加え、防災・福祉関連分野とのデータ連携による包括的サービスにより、安心・安全なまちづくりに貢献するための実証を担当。
図1 分散型の「分野間データ連携基盤技術」
分野間データ連携基盤技術の考え方
- 背景 ~規範の時代における調和のとれたデータ利活用への期待~
ビッグデータはその特性上、大規模かつ高速処理が可能で、低コストで有益な知見を得ることができ、学問や科学などの場面のみならず、産業やビジネス、行政や医療、教育など、さまざまな分野における課題解決への活用が期待されます。
一方、さまざまな規範が存在するグローバル社会において、データ利活用は、技術力に長けた特定企業の"Winner takes all(勝者独り占め)"論理ではなく、産官学で調和のとれたデータ空間の構築が求められています。 - 日本がめざすデジタル社会 ~Society 5.0とDFFT~
国内では、データ駆動型社会のモデルとして経済発展と社会的課題の解決を両立するSociety 5.0が提唱され、推進されています。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)の膨大なビッグデータを、あらゆる分野の壁を越えて連携させ、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT:Data Free Flow with Trust)を実現することが不可欠です。2021年6月に閣議決定された「包括的データ戦略」においても言及されており、政策への取り組みが始まったところです。 - 分野間データ連携基盤技術
国・地方公共団体や企業、大学や研究所などの学術機関などにおいては、各分野でデータ流通や利活用の取り組みが進んでいます。しかし、分野を越えたデータ連携については円滑に進んでいない状況です。
そこで、第2期SIPの分野間データ連携基盤技術では、これらの分野を越えたデータ流通や利活用のための技術の研究開発および、新しいプラットフォームを提供することで、データを扱う利用者の課題解決をめざしています。具体的には、分野の壁を越えたデータ発見の容易化、多様なデータ利活用サービスを連携させる高い相互運用性、社会実装・国際展開の促進に取り組んでいます。アーキテクチャとしては、各分野におけるデータ流通の仕組みを最大限尊重し、それらを各分野の特性にあわせて分散的に連邦化するビルディングブロックス型(注7)をとります。分野間データ連携基盤技術は、産官学の英知を結集し、分野を越えたデータ流通・利活用に係る課題を解決し、Society5.0の進化、国内のみならず世界の未来に貢献するものと考えます。
「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」の研究開発について
SIPは、日本の科学技術イノベーション実現のために創立された国家プロジェクトであり、基礎研究から実用化・事業化に至るまでを見据えた取り組みを推進することを目的としています。2018年から始まった第2期SIPでは、Society5.0を具現化するためにサイバー空間とフィジカル空間とが相互に連携したシステム作りが不可欠であるとして、課題の一つである「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」(注8)(注9)の研究開発が採択されました。
本研究開発では、Society 5.0 を具現化するサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合するサイバー・フィジカル・システムの社会実装に向けて、ビッグデータ・AI に係る基盤技術として、人と AI が協働することで人の認知・行動を支援・増強するヒューマン・インタラクション基盤技術や分野間データ連携基盤技術を開発しています。
中でも、「分野間データ連携基盤技術」の研究開発では、国、地方公共団体、民間などで散在するデータを連携させ、ビッグデータとして扱い、分野・組織を越えたデータ活用とサービス提供を可能とするため、関係府省庁で整備が進められている分野ごとのデータ連携基盤やその他の様々なデータ基盤を相互に連携させる「分野間データ連携基盤技術」を用いた分散型の分野間データ連携の実現をめざしています。
注釈
注1 コネクタ:
分散型のデータ連携を実現するため、データの利用者と提供者が利用するソフトウェアツール。Peer to Peerのデータ連携のほか、各種支援サービスの利用を可能にする。
注2 データカタログ:
データを管理するために、データの定義や形式など、データに関する様々な情報を保有するもの。
注3 中央集中型サービス:
コネクタを配布した複数のデータ利用者とデータ提供者が直接繋がる分散型のデータ連携を支えるための各種支援サービスのこと。
注4 データカタログ横断検索システム:
https://search.ckan.jp
注5 情報公開Webサイト:
https://sip-cyber-x.jp
注6 OSS:Open Source Software
注7 連邦化するビルディングブロックス型:
独立した複数システムがコネクタを介して繋がり、分野間データ連携基盤全体を構成する形式を意味する。
注8 NEDOニュースリリース 2018年12月4日「SIP第2期で「サイバー空間基盤技術」に関する14の研究テーマを採択」
注9 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期 ビッグデータ・AIを活用したサーバー空間基盤技術 研究開発計画