京都大学との共同研究により、これまで難しかった流体分野のトポロジー最適化が可能に!流体制御機器の設計を強力に支援します。
サイバネットシステム株式会社(本社:東京都、代表取締役 社長執行役員:安江 令子、以下「サイバネット」)は、当社が開発・販売・サポートする流体力学を対象としたトポロジー最適化システム(「SpaceTOPTIM(スペーストプティム)」のクラウドサービスの販売を2021年10月6日から開始することをお知らせします。
「SpaceTOPTIM」は、京都大学大学院工学研究科機械理工学専攻の生産システム工学研究室との共同研究から生まれた、これまでトポロジー最適化の適用が困難とされてきた流体力学を対象としたソフトウェアです。環境問題や省エネルギー対策で重要となる、空気や液体の流れを制御する機器の設計において、新規性・独自性の高い優れた最適構造やアイデアを反映させることで、製品の性能を向上させることが期待できます。
<トポロジー最適化とは>
例えば「既存製品の剛性を保ちながら、重量を20%削減したシャーシ」、「既存製品の放熱性能を保ちながら体積を20%削減した熱交換器」など各種条件を入力すると、その条件を最大限満たした形状を提案してくれる手法です。
- 既存のデザインや形状の制約に縛られず、網の目や骨梁のような複雑な形状など、人の思考では考えつかなかったような新規性・独自性の高い最適構造やアイデアを設計に反映させ、製品の性能を向上させることが期待できます。
- 従来の寸法最適化※1や形状最適化※2のような、ベースとなる形状を変形させる手法とは異なり、専用のアルゴリズムを用いて変形や流れなどの物理現象をもとに必要な箇所のみ変更させるため、最短ルートで最適解を得られます。
- 設計者の経験や勘に頼ることなく、最適化の経験が少なくても設計の修正回数を大幅に削減し、開発期間短縮を実現できます。
トポロジー最適化の背景:構造力学から流体力学へ
3Dプリント技術の普及と発展により、これまで造形が不可能とされてきたような形状の製品であっても製造が可能となりました。この製造技術を有効活用するために、注目されている新たな設計手法がトポロジー最適化です。
昨今では、構造力学を対象とした汎用トポロジー最適化ソフトウェアが複数リリースされており、製品の剛性向上と軽量化(材料の削減)を両立させるための設計などに活用されるようになってきました。
一方で、構造力学以外の分野(例:流体、熱、電磁場、音響など)を対象としたトポロジー最適化の汎用ソフトウェアは、技術的な難しさからほとんどリリースされていないのが実情です。環境問題や省エネルギー対策の観点から、空気抵抗を最小限に抑える輸送機器や消費電力の低いMEMS※3、また熱交換率に優れた熱交換器や省エネ高出力モータなどの必要性は更に高まっています。これらの機器性能を向上させるために、流体(気体・液体)力学や熱流体問題を対象としたトポロジー最適化技術への要望も増えつつあり、サイバネットは、かねてからこの分野の最適化システム開発を検討してきました。そして京都大学大学院 工学研究科 機械理工学専攻 西脇眞二教授との共同研究により、流体力学を対象としたトポロジー最適化システム「SpaceTOPTIM」が生まれました。
流体力学を対象としたトポロジー最適化システム「SpaceTOPTIM」の特長
「SpaceTOPTIM」は、最適化アルゴリズムに京都大学の特許である「構造最適化装置、構造最適化方法及び構造最適化プログラム(JP特許番号:特許第5377501号/US特許番号:9081920)」を利用しています。
これまでのトポロジー最適化手法では、作成した最適構造の表面に不自然な凹凸が形成されたり、表面の位置を明確に表現できなかったりといった課題があり、CADなどを用いた手間のかかる形状修正が必要でした。SpaceTOPTIMによるトポロジー最適化手法では、表面が滑らかな最適構造を直接得ることができるため、CADでの形状修正が不要となるだけではなく、流体の流れ計算精度も向上します。
<SpaceTOPTIMの主な特長>
- 流体解析ソルバー:一般的な熱流体のみならず化学種問題や混相流、燃焼・反応など多岐にわたる機能を有し、豊富な実績を誇るCFDソルバーOpenFOAM※4を採用。
- オールインワンで利用可能:設計したい空間の形状データのインポートから始まり、条件設定、計算実行、結果処理までの一連の作業をオールインワンで実現。
- STL出力可能:創出した最適構造をSTL形式で出力し、CAD等で修正することも可能。
- 利便性の高いクラウドサービス:設計・解析技術者のためのクラウド版CAE環境「サイバネットCAEクラウド」を利用し、インターネットのブラウザから容易に導入可能。
SpaceTOPTIMを利用することで、初期の設計案を検討する段階から予め要件を満たした最適構造を得ることができるため、その後の設計業務を効率的に進めることが可能です。
また、既存の製品の改良・改善はもちろん、従来の寸法最適化では設計変数が多すぎて最適解を得るのが困難な場合でも、SpaceTOPTIMで予め最適構造を得ることで設計変数を削減し、最適化作業を大幅に効率化できます。
京都大学大学院 工学研究科 機械理工学専攻 西脇眞二教授 のコメント
流体場を対象としたトポロジー最適化のソフトウェアは、海外の幾つかの流体解析プログラムのオプションとして提供されつつあります。これらの多くは密度法※5と呼ばれる形状表現手法を採用しており、グレースケールと呼ばれる「流体と固体の混合状態」を最適構造として提供してしまう可能性をもちます。また、流体と固体の明確な境界を得ることは難しく、特に、乱流問題を対象とした場合に、最適な構造案を求めることが難しくなります。
最近では、このような課題を解決したレベルセット法※6と呼ばれる手法が登場していますが、それらは形状境界の変更に制約があり、最適構造内に穴を創成する形態変化を許容しません。
今回開発しましたSpaceTOPTIMは、上述の二つの課題を本質的に解決した新しいレベルセット法であり、革新的で新規性の高いものです。グレースケールのない最適構造が得られますし、厳密な境界表現をすることができ、妥当な最適構造を求めることができます。さらに、最適構造内に穴を創成する形態変化も可能としており、乱流現象を含めた熱・流体問題等の連成問題への展開において、極めて発展性の高い特長をもっております。
今後の展望
今後は流体制御のみならず、乱流場および熱問題へも早期に対応する予定です。これにより、ヒートシンクを含めた熱交換器、ダイキャストの金型など、熱対策・熱設計が重要な製品の開発・設計にも対応可能となります。
価格
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SpaceTOPTIMの詳細については以下のWebサイトをご覧ください。
https://www.cybernet.co.jp/spacetoptim/
注釈
※1: 寸法最適化:ベース形状に対し、厚みや幅、半径などの機械的または構造的な寸法を設計変数として最適化を行う手法。
※2: 形状最適化:外形形状を自由に変更できる最適化手法。しかしベース形状の外形形状を変更させるため、穴を増やすといったトポロジー変化には対応できない。
※3: MEMS(Micro Electro Mechanical Systems):日本語で「微小電気機械システム」とも呼ばれ、マイクロオーダーの電気要素と機械要素を一つの基板上に組み込んだデバイスやシステムを指す。医療やバイオの分野で利用されるマイクロ流体デバイスや、スマートフォンなどに用いられる小型センサなど、多様な分野・用途で利用されている。
※4: OpenFOAM:ESIグループのOpenCFD社が著作権および商標を所有する、C++言語で書かれたCFDオープンソースのソルバーライブラリ集。
※5: 密度法:最適構造を計算用格子(メッシュ)毎の材料密度を用いて表現する方法で、材料の境界を明確に表現できない場合や最適構造を正確に表現できない場合がある。
※6: レベルセット法:レベルセット関数を用いて材料分布を表現する方法で、材料の境界を明確に表現でき、最適構造の形状を柔軟に表現できる利点を持つ。
サイバネットについて
サイバネットシステム株式会社は、CAEのリーディングカンパニーとして、30年以上にわたり製造業の研究開発・設計関係部門、大学・政府の研究機関等へ、ソフトウェア、教育サービス、技術サポート、コンサルティングを提供しています。また、IT分野では、サイバー攻撃から情報資産を守るエンドポイントセキュリティやクラウドセキュリティなどのITセキュリティソリューションを提供しています。近年では、IoTやデジタルツイン、ビッグデータ分析、AI領域で、当社の得意とするCAEやAR/VR技術と組み合わせたソリューションを提案しています。
企業ビジョンは、「技術とアイデアで、社会にサステナビリティとサプライズを」。日々、多様化・複雑化する技術課題に向き合うお客様の課題を、期待を超える技術とアイデアで解決し、更にその先の変革へと導くことを目標に取り組んでまいります。
サイバネットシステム株式会社に関する詳しい情報については、下記Webサイトをご覧ください。
https://www.cybernet.co.jp/
本件の参照先:https://www.cybernet.jp/company/about/news/press/2021/20211006.html