正常進化するPDM&PLM - ホンモノが試される時代に


 2008年8月の米国金融界に端を発したリーマン・ショックは瞬く間に金融市場のみならず世界経済を大きく呑込みにその波紋を伝搬させた。特に脆弱になりつつあった米国の自動車業界への結末は所謂ビッグ3と呼ばれていたものの崩壊となり、欧州勢や新興国の野望をも含む新たな市場への進展となり、今日でもその変貌は毎日のように進んである。それは今日のグローバル経済の現実でもある。

 折しも自動車業界は既にPLMカーと言って良い程、PLMアプローチによる製品創出が現実なものとなり、市場に製品提供されている。さらに最近では一般的にはモノづくり産業ではないプロセス系の食品&飲料(製品例、ビールやソフトドリンクなど)の分野でもPLMは現実なものに進展して来た。

 これら製品づくりの核となる諸々の需要なキーとなるPDM/PLMの現況と課題と進展について焦点をあててみたい。

定義:PDM/PLM

 本稿のタイトルは「PDM&PLM」であり,これは「機械設計」誌からの命題だ。実はこれ自体多くの解釈に分かれ、歴史的過程を含めた背景をも含む利害関係の中である方向性だけに着目されがちだ。ユーザー組織では自身の適用過程の中で培われた経験に基づくものに支配されて来たものやテクノロジーサプライヤー&サービスプロバイダーに於いては販売上の戦略に基づいたものでもある。

 これら様々な解釈や利害得失による誤解・誤認を避けるためにまず最初に本稿に於ける「PDM/PLM」と言う単語の使い方について定義する。

 PDM/PLM業会の世界的なリフェレンスモデルの一つであるCIMdata社(*1)は、PLM(製品ライフサイクルマネージメント)について「人々、プロセス、情報を統合し、コンセプトから廃棄まで企業(また企業間)を横断する製品定義情報のコラボレーティブな生成、マネージメント、配布、活用する上での首尾一貫したビジネスソリューションを適用する戦略的なビジネスアプローチ」と定義する。つまり、「戦略的ビジネスアプローチで」あり、単なるテクノロジーではなく、首尾一貫したビジネスソリューション群の適用であり、製品定義情報のコラボレーティブな生成、利用、マネージメント&配布の支援である。製品定義情報には全ての製品/工場の情報:バーチャル製品(MDA, AEC, EDA, CASE, 解析, ドキュメンテーション他)と全てのバーチャルな製品プロセス(計画、デザイン、生産、販売/利用/保守など)を含む。企業&関連企業間(Extended Enterprise)をサポートし、全製品/工場のライフサイクル( コンセプトから終焉まで)に及ぶ。

 これらは全体を意味するものであり、実装の範囲は企業それぞれの明確なビジョン&戦略,優先度に基づくものである。尚、全て満足する「単一」のソリューションも世の中に存在しない。

表1:PLM( 製品ライフサイクルマネージメント)の三つのカテゴリー
コラボレーティブ製品定義マネージメント
製品に関連した知的な(デジタル/バーチャル)情報(関連プロセスを含む)についての獲得、配布、可視化ならにコラボレーションを行うためのアプリケーション並びにソリューション群
ツール
知的な資産を創るために使用されるアプリケーション群
製品並びに工場/設備の情報のオーサリング、解析、モデリング、シミュレーション、またドキュメンテーション
デジタルマニファクチャリング
工程計画、資源定義、工場のレイアウトや製品のフローシミュレーションと解析(エルゴノミクス含む)


 更にCIMdata社はこのPLMの定義を表1の様に三つのカテゴリーに分解している。

 この(1)のコラボレーティブ製品定義マネージメント(*2)、すなわちCIMdata社が定義するcPDm(Collaborative Products Definition Management)が一般に言われるPDMに相当するものであり、PDMと言う単語が登場した80年代後半から脈々と進化したものである。進化とは当初は単に設計者のCADデータや成果物であったり、設計プロセスに於ける諸々の関連情報、さらに設計部門から生産・製造部門間、販売&保守のライフサイクルへと、最近では構想設計、さらにその上流へと製品ライフライフサイクルの幅を広げつつある。CADや仕様書など「Data=データ」としていたものが今日では「Definition=定義」となり、製品に関するプロセスをも含む様々な情報に対応し、部品表(一般にはBOM)、そしてIP(Intellectual Property:知的資産)のマネージメントを含む。

 よって本稿ではこれ以降、PDMはこのcPDmを指し、cPDmを含むツール群などを含む総称をPLMと理解されたい。

正常進化

 上述のようにPLMを含めPDMは段階的に進化をしている。「正常進化」は、PDMと言う単語は登場した90年代前後から今日に至るおよそ20年もの間、脈々とニーズと共にぶれることなく進展し、PLMへと展開をした。それらの背景には古典的な図面中心の製品設計情報からデジタル化による確かなる製品定義とその情報量である。

Product Information

図1:固有部品に於ける関連情報

 まずは図1を見ていただきたい。一つの部品を見てもその裏には物理的な部品を完成させるためにバーチャルとも言える製品づくりを確かなものにするプロセスを含めた巨大な情報群を必要とする。旧くは1950年代欧米から導入された2次元図面の手法を基に設計者個人の頭脳とリンクしたもので事は済んでいた時代もあった。しかし、今日の製品構成要素が複雑化(機構系+電子系+組込むソフト系)したものでは単に図面&設計者の力量では確かなる製品定義情報の維持はそれなりのIT支援がなければ困難を極める。これらのマネージメント機能は、今日では多くのCADシステムに首尾よく組込まれたり、チーム向けのPDMソリューションのコアな機能してと首尾よく進展している。

Information thru Lifecycle

図2:製品ライフサイクルに見る関連情報量

 以上は設計プロセス内での狭義の ライフサイクルマネージメントでもあった。 次に図2を見ていただきたい。製品定義情報がライフサイクルを経て増大するということである。初期のPDMは設計プロセスの支援が一気通貫と言う言葉に共通するが更に設計の情報の究極活用として部門間を越えて工程設計や製造・生産へとクローズドループ(矛盾無きフィードバック)をも考慮された形態で発展した。

 これらライフサイクル軸での拡大は継続しており、販売&保守は勿論、製品設計初期あるいはそれ以前の構想設計とか市場ニーズの直結した製品設計などの上流プロセスへの支援も現実なものと進展をしている。

 製品開発プロジェクトを様々な角度から確実なものするためのプロジェクト・計画&ポートフォリオマネージメント、後工程をも考慮したコスト管理など多くの領域がある。また設計プロセスに於けるコラボレーション(社内外関係者)領域についても可視化(透明性且つ戦略&プロセスに基づく)領域にPDMが初期から脈々と貢献したものであることを忘れてはならない。これらは全てニーズと共にその対応すなわちソリューションは大きな進歩を果たし続けている。

 このような正常進化の背景を知り、PDMの進展を正しく理解し、自社に合った展開は不可欠である。尚、図2は二次元表現であるが、今では常識であるグローバル製品・設計&生産と言うようなもう一つの軸、所謂仕向地むけの情報(規制、法律、調達、生産、保守まど)を含むマネージメントが実態であり、三次元方向を持ちその維持はより複雑なものになる。勿論、多くのPDMソリューションはこの面を首尾よく支援しており、グローバル化した設計・生産そして販売・使用・保守のビジネス環境へのニーズに向けて更なる展開を進めている。

プロセスの棚卸し

 実装面について二つのポイントに絞って記述する。PDM初期の時代には多くあった話が当時の時代性を反映したBPR(ビジネスプロセス・エンジニアリング)も今でも基本は変らないが、より現実的なプロセスなりの改善を行うためのポイントを考えたい。

Validating Best Practices

図3:自身のベストプラティスを知る

 図3を見ていただきたい。皆さんの製品を創出する、設計をする、生産をする、そして販売をするなどについてはプロセスを洗い出し、それらがこの4つの領域のどこに属するかを評価し、さらに将来のためのプロセスを考慮いただきたい。所謂、ベストプラクティス(BP)と言われるものの形骸化であり、プロセスの棚卸しと考えてもらいたい。PDMの適用に於いて重要なことは以下の点である:

どこにもあるBP:これはおそらくPDMアプリケーションの中で利用出来るものである。あるいは自社プロセスをツールに若干合わせることも肝要。

死守するBP:これこそが利益の根源であり、差別化/優位性であり、これはおそらく想定PDMアプリケーションの中に無い部分である。これは当然、カスタマイズとなる。

投資するBP:自社内にないものは自社開発ないし購入(手法やコンサル)するしかない。

陳腐化BP:ここがおそらく結構困難な部分である。捨てる勇気が必要だ。PDM実装の対象ではない。

IT TOP DOWN

図4:戦略ありき

 よく耳にする話として、欧米企業はベンダーのソリューションをそのまま使うと言う意見があるが筆者はそうとは考えない。実装現場では多くカスタマイズがある筈でそれがそれが企業の強みを支援しているのである。一つ考慮するならば、その様な新たなBPが比較的短期にパートナーであるテクノロジーベンダーやソリューションサプライヤーにフィードバックされると視る。

 二つ目のポイントは戦略である。図4にあるように「ビジネス上の要求から落とさない限り実装出来ない」にあるように現実的な戦略を持ったトップダウンが不可欠なことである。これは決して「水は下から上には流れない」と言う事を肝に命じ、戦略なきところにはビジネスプロセスも確かなものにはならない。それを支援するITの勘所の議論もおぼつかないし、更にPDMから何を得るのかなども明確な検証すら出来ない。IT(PDM/PLM)ありきの話ではない、PLMを戦略的アプローチと言う背景はここにある。

 以上の二つのポイントはおそらく自社資源での展開はしがらみなど含めての利害もよくある。社外のソリューションプロバイダー/コンサルタントと共にパートナーとして推進することが望まれる。

現状&将来

 以上のようにPDMはPLMの基に製品定義情報の様々なライフサイクルのためにニーズを基に進展をし、企業のデジタルなモノづくり、またグローバルな環境に柔軟に対応する能力を支援している。またソリューションなど注目すべきポイントには以下のものがあげられる:

  • コミュケーション&コラボレーション手法にソーシァルネットの活用
  • コンプライアンス(規制、グリーン製品含む)への更なる対応
  • 製品構想プロセスの支援(Early BOMなど)
  • テクノロジーベンダーとサービスプロバイダーのパートナー戦略拡大&組換え
  • 実装プラットフォームの拡大(マイクロソフト環境、そしてiPhoneなどスマートフォン)
  • 初期ソフトウェア投資費用の低価格化、またオープンソースなども新たなビジネスモデルに

 以上のように将来に向かって新たな対応が進んでいる。PDM/PLMの目指す方向は製品のバーチャル側、すなわち製品定義情報のあらゆる領域への支援であり、物理的な製品や資源の支援であるERP側とオーバーラップ&協調しながら今後も進化をして行く。

People Process Technology

図5:人、プロセス、そしてテクノロジー(IT)

 製品設計をする設計者や管理者として、これら進展を含めてPDMの役割を理解するとともに自社の明確な製品戦略をもって確かなるプロセスの確立と現場のIT策定をしなければならない。設計者自身も自分だけの問題ではなく「My Comapny PDM/PLM」のレベルで上下左右をよく見て考えなければならない。

  最後に参考としてPDM/PLMを展開してきた例として日産自動車がある(詳細は*3)。成功要因は:

  • 明確な企業ビジョンの基に推進に於けるトップと推進現場の双方でのコミットメント
  • 永年に渡る製品定義情報のあくなき精度&活用向上の活動
  • 設計(試験含む)のプロセスの形式化と整理&活用、そして改善&メンテナンス
  • 生産面でのサプライヤーとのモジュール化の明確化とグローバル生産の検証アプローチ確立
  • 上記を支援するITシステム利用・構築(CAD/CAM/CAE/PDM)とVOC活動

 企業能力を高めるためのはまず人ありきであり、そして明確なプロセスの存在&確立、更にテクノロジー(IT)の支援を進め継続的改善をする姿がそこにはある(図5)。

参考文献:

*1:CIMdata社:米国ミシガン州の世界的なPLMコンサルティング企業(http://www.CimData.com)
*2:cPDm(Collaborative Products Definition Management),CIMdata社白書(英文)
*3:Nissan Motor Corporation、“Product Lifecycle Management、Case Study” (日本語版)、April 2008、CIMdata Case Study

【江澤 智】
コンサルタント(ソフトウエア)会社並びに大手専門社にて、日本並びに米国にて開発エンジニアとして基本ソフト(OS、コンパイラー、通信)の開発に従事、 その後、 地図情報システムやエキスパートシステム、CASEシステムなど海外の先端情報技術の調査と市場投入&実装を経験。1980年代後半から製造業に特化した技術情報管理システム(PDM含む)などの調査&市場開発、システム構築およびユーザー企業への導入支援に従事。1995年6月 メタリンク株式会社を設立。米国CIMdata社日本代表を務め、内外企業のPLM/PDMのコンサルテーション、技術情報システム構築全般 に渡るベンダー向け並びにエンドユーザー向けに戦略コンサルテーションを幅広く実施。米国ICM社&アリゾナ州立大学のCMII(コンフィグレーションマネージメントII)の認定所有。

表2 テクノジー・ベンダーとソリューション・サプライヤの製品&サービスの動向
(順不問、2009年12月末でのインタビュー・ベース)

シーメンスPLMソフトウェア(T)

  • 企業・関連企業内のコラボレーション促進をさらに支援、 ビジネスプロセス全体が目的に向かってワンチームの実現。さらに生産領域にも。
  • 中堅・中小支援(Teamcenter Express)から大規模な適用の基盤は共通モデル(Teamcenter)。

電通国際情報サービス(S)

  • 製品開発プロセス全体を大規模~中堅に展開。また商用ソリューションで適用困難な場合は小回りの効く自社構築のソリューションも適用。
  • 更に製品設計に寄与する評価プロセスこコンサルも、これらはこれまでのユーザー現場(iTiDコンサルティング)での実務を反映したもの。ソリューションとしてのiPRIME NAVIの強化。

図研(T&S)

  • 永年のEDA支援を背景にMDA領域への統合支援でメカトロニクスへのソリューション。
  • 製品設計上流での原価支援に加え、更にモジュラーデザインでの製品仕様プロセス支援のPreSightを提供。

SAP(T) 

  • PLM 7:巨大なERPベースの資源とリアルタイム統合(業務プロセス&データ統合)
  • 市場変化&マスカスタマイゼーション環境に対応する多仕様&統合BOM;iPPE(Integrated Product and Process Engineering)

NEC(T&S)

  • Obbligato IIを通じて多くの日本企業(大手~中堅)への20年以上の歴史を持つ、その間,データモデルは首尾一貫。プロセス系(食品&飲料)にも。
  • アジアでの日本進出企業支援にも注力。そのために最近、独自のIPのセキュリティ機能を強化。またアジアでの日本企業支援ビジネス拡大にPTC社と再提携。

ソリッドワークス・ジャパン(T)

  • SolidWorks Enterprise PDMを通し、設計者並びに設計チーム間の生産性を引き出す支援し設計能力を向上させる。
  • 3DVIAで製品ドキュメント支援、またグリーン製品開発支援ソリューションも。

PTC(T)

  • PDM製品、Windchillをコアに製品開発プロセス支援拡大継続
  • 国内大手サービスプロバイダーとの提携拡大(アジア市場強化を含む)

富士通(T&S)

  • PLEMIA製品&ソリューションでM3コンセプトの推進。構想設計ソリューションも。
  • 環境ソリューション(ECODUCE)はPLEMIAのPDMと同じデータモデル。

ダッソーシステムズ(T)

  • ENOVIA V6R2010xへと。V6への移行を促進(Smarteam含む)。
  • IBMとのグローバルアライアンス計画を発表。IBMのPLM販売事業をダッソー・システムズへ統合(買収)。

T:テクノロジーベンダー、S:サービスプロバイダー

(註)各社の名称、ソリューションのブランド名はあるものの、記述の内容は筆者の見解であり固有の宣伝をするものでない。

(機械設計誌 2010年を切り開く 機械設計社への10の提言(2010 Vol.54 No.2)寄稿改訂編集)


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