2. 製品ライフサイクルの変化:収益ポイントのシフト


 今から8年遡る1998年のCIMdata社のPDMに関する欧州カンファレンスに於いて、通信、コンピュータ・システム、産業機器、家庭電化製品、ビジネス機器のリーディング・サプライヤであるジーメンス社のCIOは、その基調講演の中でPDM実装戦略の背景を次のように語った:

 “イノベーション速度の高速化や市場の要求で、ジーメンスは1984年に5年以内に開発された製品からのセールスが55%であったが今日では74%となっている。これらは近い内に90%が5年ないし、それ以下のライフサイクルでの製品のセールスになる”

 市場ニーズ&環境の変化で短くなった製品ライフサイクルに対して核となる製品開発プロセスを作り、そのためのテクノロジーとしてPDMを導入することは、全社に『生きた』情報とコミュニケーションのフレームワークを巻き起こすと付け加えた。

Changed Value W500

図4:顧客の価値への対応変化

 このようなライフサイクルの変化(図4:顧客の価値への対応変化)が現実となった今日、次のような状況を様々な業種で目にする:

  • 自動車産業:より顧客の趣向に合わせたバリエーションの設定。過去は単一モデルに対してデラックスとかスタンダードで作り手の論理であったが、昨今ではパッケージングがより木目細かくなり、幅広い買い手の趣向に合わせるようになった。
  • コンシューマ産業:顧客にニーズを喚起する商品や市場の開発、あるいは競争が加速し、結果的にライフサイクルの短縮化、またバリエーションの複雑さを生んでいる。航空宇宙産業;買い手である航空会社の利益に結びついた製品(機体&サービス/保守)の提供。またエンジンサプライの買い手側のライフサイクルに見合った現実的な製品価格と保守サービスの提供。
  • 機械産業:顧客のグローバル化とそれに伴う製品&サービスの多様化 、またバリエーションの拡大、サプライヤのグローバル化。
  • 食品&飲料産業、衣料産業:消費者ニーズの多様化と木目の細かい製品のデリバリー。例えば季節限定商品など。

 これらの変化、すなわち過去の長期販売の需要予測も比較的容易であった大量生産での売上&利益創出から、顧客&市場の変化、あるいは市場創出のための顧客指向の商品を創出しなければならない。

 上流側の仕様が決まれば、後は長い期間、下流側のバリューチェーン、すなわち材料&部品を仕入れ(インバウンド・サプライチャーン)と完成品を市場に送り出す(アウトバウンド・サプライチェーン)での閉じたループでの売上と利益を創出していた形態が、明らかに常時上流を巻き込んで顧客へ価値提供をしなければモノづくりが達成出来ないことに変化したことだ。

Shifting Innovation w500

図5:価値の変遷 - 日本の製造業から見て

 日本の製造業は1950年代以降(所謂、戦後)、技術立国を目指して突き進んで来た。おそらく今日まで三つの大きなうねりにさらされて来たと言って良いだろう(図5:価値の変遷 - 日本の製造業から見て)。

 今日のビジネス環境では製造が限りなく設計に近い、あるいは設計が限りなく製造に近い緊密な関係で、さらに両者(全ライフサイクルの関係者を含む)は限りなく市場に近い位置で顧客への価値創造の即応性が鍵である。

Transformation of Req w500

図6:要件のトランスフォーメーション

 『モノづくり』とは売れる商品創出のために顧客や市場、そして戦略を組込んだ要件を従前の経験ないし新たな要素技術を基に具現化し、すなわち仕様化/見える化し(これが知的資産)、如何にタイミングを見計らってデリバリー/生産&流通(これは有形資産)するかであり、それは全ライフサイクルに渡って『要件の確かなるトランフォーメーション(転写)』と筆者は考える( 図6:要件のトランスフォーメーション)。

  • 要件には代表的なものと次のようなものが含まれる:
  • 市場状況
  • 規制対応、環境課題
  • 製品機能
  • 要素技術&既存の知的資産、製造プロセス
  • ライフサイクルでの使われ方、廃棄&リサイクル
  • サービスプロセス
  • インバウンド&アウトバウンド・サプライチェーン条件
  • もちろんQCD課題

 これらは当該企業のビジネス戦略により、要件を仕様&具現化し、その結果としてプロトタイピングしたものが有形製品となる。過去のビジネス環境では上流と下流の緊密性が低い生産&製造側で閉じたループにより売上&利益を長期に渡って排出して来た。しかし、変化してしまった第三のうねりの中では、上流側と下流側が論理的に限りなく緊密に機能しなければならないことは明白である。しかも要件を如何に時間差無く且つ確実にライフサイクルの中にトランフォーメーションすることである。それは製造が限りなく設計に近い、あるいは設計が限りなく製造に近い、さらに一体であることだ。

 この状況を考えると一つの大きな課題が浮かび上がってくる。それは大量生産向けに最適化されて来たIT資産、例えば生産&製造に重点を置いた管理体系のBOMシステムなどだ。これで今日のビジネス環境で生き残れるだろうか?答えは明確である。

 過去のIT資産への小手先のパッチジョブでは収まらない。パッチジョブは『IT不良資産』を増大するだけとみるべきである。『企業業績の30%の貢献をする下流工程/有形資産のマネージメントに70%のIT投資を行っている、企業は70%の貢献をする上流工程/知的資産のマネージメントを理解しなければならない』と業界で語られていることに耳を向けるべき時に来ている。収益ポイントのシフトである。ライフサイクルに渡ってのモノづくりの確かなる要件のトランフォーメンションの仕組が必要である。それは単にITツールだけではなく、プロセスや人(組織)にも関連する課題である。PLMのアプローチはそれらを的にしていることを肝に銘じてもらいたい。

 次回は製品あるいは商品そのもの、また業界や戦略で異なるライフサイクルの利益ポイントを見てみたい。

(江澤 智、2013.5.10 改)


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