PDM誌上セミナー - 第一回:PDM、トレンドと現実


 PDM(Product Data Management、注.1)が製品データ管理と翻訳され、筆者も当時影ながら後押しをして公に日本に紹介されたのは1992年の秋だったと記憶する。当時は所謂バブル経済のカゲが落ち始めつつあるものの、まだ日本経済も惰性と言うか、勢いと言うものが残っていた時代である。それから約7年余り、PDMはどう成長しているのだろうか?どう導入したらよいのだろうか?どう(本当に)使われているのだろうか?今後どうなるのだろうか?これらPDM導入担当者のみならずその実態について多くの皆さんが興味を持っていることと想像する。こんな質問に回答すべく4回に渡り簡潔に纏め、読者諸氏の日常の業務活動へのヒントとなればと考える。

 『PDMとは何か?』、この様な質問にすぐ答えられるだろうか?また、会社の中で経営陣から『PDMに投資して何の約に立つのか?』と、これまた中々回答に困るのが現実である。過日、ある勉強的なセミナーで筆者はQ&Aの議論の場で、3次元CADとPDMの連係と動向を説明したところ、あるベンダーのコンサルタントから『それは違う。PDMとは営業から始まって...全社のデータを一元的に管理するものと...』と、反論をいただいた。おそらくその方はPDMと言うものに御自身の明解な概念があったと記憶する。これはホンの一例であって、多くの人の中でPDMについて様々な見方そして固定的なイメージがあるのではないだろうか?

PDMビジョンとベンダー製品

PDM Vision

 PDMの定義(*.1)は存在し、そのビジョンは右図の様に語られ、広く理解されている。しかし、ここで上述の様な質問や議論になってしまうのは何故なのだろうか?まずこの点を明解にしなければならないと考える。また、PDMがCADやワープロの様に具体的な『モノ』を造らないところがその実体や効果を見えにくくしている。改めて、PDM機能について再確認をすると下記のようになる:

  • 全ての製品に関するデータのマネージメント(注.2)
  • 製品に関連したデータが使用される全てのプロセスのマネージメント(同上)

 この2つの面がビジョンの根底にある。ビジョンは4~5年前のベンダー・フォーラム(注.3)でベンダーやサプライヤが『実現出来る』、『イヤ出来ない』などの様々な議論が白熱した。結果的に全てのビジョンを一つの製品で実現したものは未だ出てない。むしろ、ビジョンを実現のためのソリューションすなわちインテグレーションで正常進化している。

 一方、ユーザー側もその機能を全て使う訳ではないし、単一のPDM製品で全てが解決出来る訳でない。また、ユーザーが製造する『製品』と言うものがユーザーに依って異なる。ここが大きなポイントで、自社や自部門の製品そして課題は何のかを明解にした上で、PDMのビジョンの下にどの程度のスコープ(時間軸&機能軸)で速く結果や利益を得るかと言うことになる。このソリューションはユーザーによって異なり、一概に『PDMと言う道具』だけでの評価で現実的な効果・利益を語ることを容易にしてくれないのである。

 今から5~6年前と記憶するが、米国でPDM導入の黎明期であった頃、PDMカンファレンスで良く言われたことは『どこのPDM製品もカタログでは同じに見える』であった。日本でも一部経験ある先進的ユーザーは別として、多くは今だこの言葉があてはまるのではないだろうか?この様なことを感じ、ベンダー製品の機能比較をされていたならば、そんなプロジェクトはすぐ中止されることをお薦めする。いずれその投資は無駄になることは明白である。何故ならば、ベンダーの製品の発展が急進していること、そして、まず皆さんは、すなわち自社あるいは自部門のビジネスのアセスメントを行なうことが先決である(これについてはシリーズの中で解説予定)。

PDMは未だ新しいテクノロジー

 PDMが新しいテクノロジーか?と言う議論をしてしまうと、これは期待なのか、それとも失望なのか、と言う意見に分かれてしまいかねない。つまるところ正確には『市場的に未だ未成熟』とも言うべきだ。この理由は歴史的に見れば明白である。例えば、2D CADを見れば道具として熟成をし、3D CADに発展し始めて早30年である。2D CAD導入の時点でもテクノロジーへ許諾に様々な文化的抵抗もあった筈である。それが今では大学のクラスの中で3D CADをマスター出来る時代である。ERPについてもMRPと言うものをベースに発展をしており固有の部分のアプリケーションをベースにしているので理解が容易でる。

 一方、PDMはどうか?そのルーツはM-CADのデータ管理やある社のBOMシステムをベースに、またそれらのテクノロジーをベースにベンチャー企業が80年代の後半から様々な言葉で世に登場してきたのだ。たかだか10年のテクノロジー&ビジネスと言って良い。『新しいテクノロジー』と言うか、『未成熟市場』と言いたい由縁である。この10年の間にPDMがビジョンに向かって、様々なベンダーとユーザーがチャレンジし、それを支援するテクノロジーがUNIXベースからPCへと、インターネット/イントラネットの劇的進展、オブジェクト・テクノロジーの普及と変化をしている。先駆的PDMベンダーとユーザーが日夜チャレンジした最初の10年である。

ベンダーはソリューションを提供、システム・インテグレータも充実

PLM Market

 PDM投資(右図)を見ると、ここにPDM業界の過去10年の軌跡をみることが出来る。詳細な分析(*.2)は別として、昨年(1998年度実績統計)は米国の景気の好調さも反映して全世界の市場規模が約1.4億ドル(1,400米国$)であり、昨年のCIMdata社のアナリストの予測成長率の22%を大きく上回り、1998年度の成長率は27%であった。この要因は米国企業の投資意欲が大きく貢献していること、そして収益の傾向として従来に増して、サービスの部分が増加していることである。これは今後とも続くものと分析している。日本の投資については経済状況を反映していると言わざるを得ないが、PDM投資について言えば、微増の成長であり、投資意欲は強いと分析する。全世界に占める割合はおよそ12%強であり、アジア・パシフィック市場の大半である。

 ベンダーの形態も従来のツール・ベンダーからよりアプリケーションを充実させてソリューション・ベンダーへと進展していること、例えば、3D CADやビジュアライゼーションツールとの連係でコラボレーション環境の提供、ERPやレガシー・システムとの連係を容易したりするなど、その開発・進展状況は目に見張るものがある。また、システム・インテグレータも名立たる企業を含めて、この分野に参入をして、規模の大きな導入に様々な経験あるメニュー(業界の経験、PDMの経験、インフラ技術、プロセスの技術、プロジェクト管理など)を披露している。この傾向は日本でも同様であり、よりユーザーの課題を満足すべく、システム・インテグレータにおいて組織変更など含めての努力が行なわれている。

3/4文字戦争と黒船文化

 折しもここ数年、日本経済はまことに厳しい場面にあり、企業再生のシナリオとして、所謂IT(情報技術)への投資が叫ばれている。そんな中、ある部分で『SCM』とか『Knowledge Management』と言うものが巷でもてはやされているようである。ターミノロジー(所謂3/4文字キーワード)先攻ではなかろうか?しかし、過去を振り返るとMIS、CIM、そして最近ではCALSと数をあげればきりがない。我々日本人の国民性として、手元に優秀なテクノロジーがあるにも関わらず、そのレビューや体系化をワールド・クラスで表現することを得てして不得意として今日に至っているように思える。また、上記の様な新しいコンセプトも全国民的にスタディするものの現場への実装の決断が遅れがちである。

 歴史的に見れば、徳川幕府の黒船襲来、第二次世界対戦の敗因、そして最近ではバブル崩壊後の再建も同様なことを考察出できる。現実をレビューし、改善のブレークスルーを自らやらねばならない。あれほどまで議論したBPRを政府や金融業界がすぐに実行していたならば、と誰しも思うのではないだろうか?スタディは最短時間で、即実行を求めたい。PDM導入も例外でない。PDM業界はよくあるターミノロジーの様な浮いた話があまり聴こえてこないのは幸いであるが、これも先駆的ユーザー並びにベンダー諸氏の血の滲む日頃の努力の賜物である。

 製造業に於いてはインターネット環境におけるグローバル・サプライチェーンは嫌でも避けることは出来ない。そんな中でPDM業界も成長している。良く言われるように、『新しいテクノロジーには新しいお作法が必要』、ちょっと機能を試してみようなどと思うのは痛手を伴うのではないだろうか?結果が出ずツールの責任にするのは至って簡単なのである。そんなケースはいくらである。しかし、企業再生の過程でそんな事を言っている余裕はないのである。ぜひ、そう考えてPDM導入プロジェクトを進めていただきたい。次回は『PDMのニーズと投資効果の課題』を整理したい。

【注】

  • 注.1 PDMと言う言葉は類似後として、PIM(Product Information Management)、EDM(Engineering Data management)、TDM(Technical Data Management)などがある。オーバーラップする部分もあり、それらを包含する形でここではPDMを使わせていただく。
  • 注.2 ここで『マネージメント』としたのは支配的・強制的な『管理』と言う意味あいとその目的を異にしたいため、すなわち米国的な意味あいで『うまく取り扱う』的な思いである。
  • 注.3 ベンダー・フォーラムとは米国CIMdata社がPDM業界進展のために年1回(毎年9月)、全世界のPDM及び関連ベンダーが一堂に会し、本業界の方向性や課題を議論する場。

【参考文献】

  • *.1 Product Data Management: The Definition, An Introduction to Concepts, Benefits, and Terminology(CIMdata社発行、英/仏/日/ドイツ/スペイン版)
  • *.2 PDM Market Opportunity Report: Module I - April 1999(CIMdata社発行)

(江澤 智、2013.5.10 改)


本件についてのご意見はこちらからお送り下さい。

Your local time is  where you live.

© 1995-2017 MetaLinc K.K.